東日本大震災の後、約三年半にわたり「陸前高田災害FM」のパーソナリティを務めた阿部裕美さん。
地域の人びとの記憶や思いに寄り添い、いくつもの声をラジオを通じて届ける日々を、キャメラは親密な距離で記録した。
津波で流された町の再建は着々と進み、嵩上げされた台地に新しい町が造成されていく光景が幾重にも折り重なっていく。
失われていく何かと、これから出会う何か。
時間が流れ、阿部さんは言う——忘れたとかじゃなくて、ちょっと前を見るようになった。
監督は、震災後のボランティアをきっかけに東北に移り住み、刻一刻と変化する町の風景と出会った人びとの営みを記録してきた映像作家の小森はるか。傑作『息の跡』と並行して撮影が行われた本作は、映像表現の新たな可能性を切り拓くことを目的としたプロジェクト「愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品」として完成。あいちトリエンナーレ、山形国際ドキュメンタリー映画祭、恵比寿映像祭と立て続けに上映され、先鋭的なプログラムの中でもひときわ大きな反響を呼んだ。
1989年静岡県生まれ。映像作家。映画美学校12期フィクション初等科修了。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業、同大学院修士課程修了。2011年に、ボランティアとして東北沿岸地域を訪れたことをきっかけに、画家で作家の瀬尾夏美と共にアートユニット「小森はるか+瀬尾夏美」での活動を開始。翌2012年、岩手県陸前高田市に拠点を移し、人々の語り、暮らし、風景の記録をテーマに制作を続ける。2015年、仙台に拠点を移し、東北で活動する仲間とともに記録を受け渡すための表現をつくる組織「一般社団法人NOOK」を設立。2015年、長編映画第一作となる『息の跡』が山形国際ドキュメンタリー映画祭2015で上映され、2017年に劇場公開される。
1983年宮城県仙台市生まれ。映像作家。アートプロジェクトや民話語りなど、地域の文化を映像で記録するほか、「対話」をテーマとしたワークショップをおこなう。主な監督作に『家にあるひと』(2019)、『飯舘村に帰る』(2019)など。また、小森はるか監督『空に聞く』(2018)、小森はるか+瀬尾夏美の『二重のまち/交代地のうたを編む』(2019)などに参加。記録集「セントラル劇場でみた一本の映画」を企画・編集。
『空に聞く』というタイトルには二つの空の意味を込めました。一つは、亡くなられた方たちのいる空(sky)に耳を澄まし、想い続ける人としての阿部裕美さんの姿を思ってつけました。弔う時に向く方向は人それぞれで、家の跡地に立つ人も、お墓にいく人も、海に向かう人もいます。阿部さんは月命日によく空を見上げていらして、その姿が印象的でした。陸前高田の空は、本当に広くてきれいです。風景を撮り続けながらいつも驚いていました。復興工事によって全く違う顔の街になっていっても、この街の空の美しさは変わらないのだと思いました。もう一つの空は、陸前高田の人たちがマイクに向かって話す時に、少し頭の上を見上げながら、震災前の街を思い浮かべて記憶を辿る様子から、その記憶が立ち上がっている空(air)です。そこに耳を傾けたいという思いでつけました。カメラには写すことのできないものたちが、人々の懐かしみながら語る声や、それを聞く阿部さんの表情から、見えないけれど伝わってくるのです。それを映像で表現したいと思いました。
津波で失われた街の上に土が盛られ、新しい街がつくられていく移行期の数年間を、断片的に記憶が思い出されては遠ざかっていくように、かさ上げする前の地面を訪ねていくように、阿部さんの声をつたって映画に定着させたいと思い『空に聞く』ができました。この映画をつくりながら、地面から空へと街の人々の視線が移っていくのを感じ、わたし自身が次にカメラを向ける先を教えてもらいました。新しい街の風景が映画を通してどんな風に見えるのか。映画を見てくださる方それぞれに感じてくだされば幸いです。
地域 | 劇場名 | 電話番号 | 公開日 |
大阪府 | シネ・ヌーヴォ | 06-6582-1416 | 【特集〈日々をつなぐ〉にて】 2024年6月30日(日)18:25~・7月3日(水) 19:00~ --- --- --- ❖5作品日替わり上映!スケジュールはこちら❖ |
東京都 | ポレポレ東中野 | 03-3371-0088 | <上映終了> <特集上映「小森はるか作品集」にて再上映決定!> 4/4㊐、4/6㊋、4/8㊍、4/10㊏、 4/12㊊、4/14㊌、4/16㊎ |
東京都 | シネマ・チュプキ・タバタ | 03-6240-8480 | <上映終了> 3月1日(月)~3月14日(日) *水曜休館 |
東京都 | 早稲田松竹 | 03-3200-8968 | <上映終了> <小森はるか監督特集にて> 8月14日(土)~8月20日(金) |
東京都 | シネマネコ | 0428-84-2636 | <上映終了> 世界ラジオデーin青梅での上映 2024年2月13日(火)のみ |
東京都 | 新文芸坐 | 03-3971-9422 | <上映終了> 2024年3月11日(月)、3月12日(火) |
東京都 | 下高井戸シネマ | 03-3328-1008 | <上映終了> 【特集〈日々をつなぐ〉にて】 2024年4月22日(月)・24日(水) 19:45~ |
神奈川県 | 横浜 シネマ・ジャック&ベティ | 045-243-9800 | <上映終了> 3月20日(土)〜4月1日(木) |
埼玉県 | 深谷シネマ | 048-551-4592 | <上映終了> 4月25日(日)〜5月1日(土) *火曜休館 |
千葉県 | キネマ旬報シアター | 04-7141-7238 | <上映終了> 2022年4月2日(土)~4月8日(金) 『二重のまち/交代地のうたを編む』 2022年3月26日(土)~4月8日(金)上映 |
群馬県 | 前橋シネマハウス | 027-212-9127 | <上映終了> 1月2日(土)~1月15日(金) |
茨城県 | あまや座 | 029-212-7531 | <上映終了> 2月27日(土)~3月12日(金) |
北海道 | シアターキノ | 011-231-9355 | <上映終了> 3月6日(土)、8日(月)、9日(火) |
岩手県 | フォーラム盛岡 | 019-622-4770 | <上映終了> 2月26日(金)〜3月4日(木) |
岩手県 | 一関シネプラザ | 0191-23-2902 | <上映終了> <上映延長決定!> 2月26日(金)〜3月11日(木), 3月13日(土)~3月18日(木) |
山形県 | フォーラム山形 | 023-632-3220 | <上映終了> 3月19日(金)〜3月25日(木) |
宮城県 | フォーラム仙台 | 022-728-7866 | <上映終了> <アンコール上映 決定!> 3月19日(金)〜3月25日(木) |
福島県 | フォーラム福島 | 024-533-1717 | <上映終了> 3月19日(金)〜3月25日(木) |
新潟県 | シネ・ウインド | 025-243-5530 | <上映終了> <特集上映「小森はるか作品集」にて再上映決定!> 5/22(土) のみ |
新潟県 | 高田世界館 | 025-520-7442 | <上映終了> 3月13日(土)~3月27日(土) *火曜休館、3/20㊏休映 |
富山県 | ほとり座 | 076-422-0821 |
<上映終了> <アンコール上映> 2024年3月9日(土)〜3月11日(月) |
石川県 | シネモンド | 076-220-5007 | <上映終了> 6月5日(土)~6月11日(金) ★『二重のまち/交代地のうたを編む』同時公開★ |
長野県 | 松本CINEMAセレクト | 0263-98-4928 | <上映終了> 2月23日(火・祝)のみ |
長野県 | 長野相生座・ロキシー | 026-232-3016 | <上映終了> 3月27日(土)~4月9日(金) |
長野県 | 上田映劇 | 0268-22-0269 | <上映終了> 9月18日(土)~9月24日(金) |
愛知県 | 名古屋シネマテーク | 052-733-3959 | <上映終了> <特集上映「小森はるか作品集」にて再上映決定!> 3月25日(木)のみ |
京都府 | 出町座 | 075-203-9862 | <上映終了> <特集上映「小森はるか作品集」にて再上映決定!> 4/4㊐、4/14㊌、4/19㊊ |
兵庫県 | 元町映画館 | 078-366-2636 | <上映終了> 6月26日(土)~7月9日(金) |
兵庫県 | 洲本オリオン | 0799-22-0265 | <上映終了> 10月3日(日)~10月11日(月) |
広島県 | 呉ポポロシアター | 0823-24-6609 | <上映終了> 12月18日(金)~12月31日(木) |
広島県 | 横川シネマ | 082-231-1001 | <上映終了> <特集上映「小森はるか作品集」にて再上映決定!> 5/6㊍、5/9㊐、5/12㊌ |
愛媛県 | シネマルナティック | 089-933-9240 | <上映終了> 3月6日(土)〜3月12日(金) |
福岡県 | KBCシネマ1・2 | 092-751-4268 | <上映終了> 5月15日(土)~5月21日(金) ★『二重のまち/交代地のうたを編む』同時公開★ |
大分県 | シネマ5 | 097-536-4512 | <上映終了> 3月6日(土)〜3月12日(金) |
熊本県 | Denkikan | 096-352-2121 | <上映終了> 4月9日(金)〜4月15日(木) |
鹿児島県 | ガーデンズシネマ | 099-222-8746 | <上映終了> 3月11日(木)~3月13日(土) |
沖縄県 | 桜坂劇場 | 098-860-9555 | <上映終了> 3月13日(土)~3月19日(金) |
Comments
※五十音順/敬称略
天と地はひと繋がりで、その層の中にわたしたちは生きている。
阿部さんの優しい声で人々の記憶がたぐられ、凛と柔らかな凧のごとく風に乗り、上空に響く。
勝手口から見える風景にこんなにも胸掴まれるのは、そこにあったものを、これからできるものを、それらを日常の中で見続けるであろう阿部さんの姿を、想像するからだろうか。
小田香映画作家/『セノーテ』『鉱 ARAGANE』
声高に、多くは語らないけれど、被災のつらさと涙がとても静かに伝わってきました。そして、それは押してくる現実の暮らしの中で、まるで何事もなかったかのように、その人の心に積み重なっているのでしょうね。こんなことをこんなふうに物語る人がいるのだと、私は湧いてくる感動を覚えました。
小野和子民話採訪者
陸前高田のあるひとときの風景、そこに生きるひとりひとりの声。津波にさらわれてもなおその地に花を咲かせる水仙やホタルブクロのように、阿部さんのラジオや小森さんのこの映画はそれを伝えてくれる。どこまでも繋がる空を見あげ胸がいっぱいになる。
小林エリカ作家、マンガ家
ラジオを録音することを、どうしてエアチェックというのか、その言葉を知った頃は不思議だった。
もちろん今ではわかる。音声は波であり、波は振動であり、それは空気中を、エアーを伝わってゆく。
エアーは、空気とは、空のこと。私たちの真上にひろがる、いつだって見上げればそこにある、空。
Listening to the Air.
小森はるかは、まさにそのようにして、この映画を撮ったのだと思う。
そこではカメラも「彼女」の声に、じっと耳を澄ませている。
佐々木敦
「現実逃避」という言葉があるぐらいだから、僕達は常日頃、現実の問題と直面して疲弊したり、怯えたり、見て見ぬフリをしたりする。現実は平板で退屈で、時に容赦なしの災厄をも齎す。場合によっては、僕達の生の前に立ちはだかる巨大な壁のように思える事さえある。そんな現実の脅威に突き通された場所から生真面目に電波を発信する阿部裕美さんの手つきに、その現実を捉えようとする小森監督の手つきが静かに重ねられる情景に、臆病者の僕などは心底参ってしまう。現実から逃げ出す代わりに、現実を慎重に重ね合わせることの美しさが見事に定着された、その時間にしか存在し得なかった稀有な映画だ。
澁谷浩次yumbo
津波後の陸前高田の思いがけない六年九ヶ月が、一人の女性の表情と声とで点描されており、心に浸みる。
この文句なしの傑作と出会うべく劇場にかけつけ、笑い、そして涙せよ。
蓮實重彦映画評論家
ラジオの持つ「誰かがそこにいて、その人の言葉で話している」生身の気配。
それぞれの場所でそれぞれの思いを持ちながら、声をかけ合い、つながっていく人々の姿。
これまでも、これからも、声は希望。
秀島史香ラジオパーソナリティー
この映画には、失われたものと今を行き来する余白がある。安易な共感ではない、でも共に感じる時間を絶やすまいとする、ラジオとカメラのそのささやかな祈りに、思わず耳を澄ませた。
広瀬奈々子映画監督
震災後の街を見守り、再生のために身を投じる女性。その姿から途方もなく大きな何かが触知される。前作『息の跡』と本作は、おそらくビクトル・エリセ『ミツバチのささやき』『エル・スール』、いや、カール・ドライヤー『奇跡』と『ゲアトルード』のように巨大な二部作だ。
三浦哲哉映画研究者
もうたまらない。ありとあらゆるものがこんなにも豊かに溢れてみえるのはなぜだろう。手を動かすこと、ひとの話をきくこと。みなさんと小森さんがしつこくかつ軽やかにそれを繰り返すから、こんな時代のなかでもまったく新しい日々が生まれ、映るのだろうか。同時代にこの映画が作られたことがたまらなく嬉しい。
三宅唱映画監督